蛇口のみず

小さいときから、冷蔵庫には必ず麦茶の入ったヤカンと牛乳のパックとが入っていて、ここまでの人生で、家でそれ以外を飲むことは特別な日、例えばクリスマスやお正月に誕生日に"特別"暑い日などのジュース類を除いて、ありませんでしたので、蛇口からコップに水を注いで飲む、という習慣もまた、ありませんでした。

そんな感じの日記です。

 

 

小学校、かけっこなどして、のどがカラカラに乾いたとき、蛇口の鼻っちょのところをぐるりと回して、それから、蛇口をひねると上向きに水が出てくるので、そこから水をがぶりがぶりと飲んだもので、思えば外に出かけたときは蛇口から水を飲むことに抵抗はなかったのですが…。

なぜでしょうね?家で生活していると、麦茶か牛乳かを飲むというのはもはや脊髄反射の域で、まあ蛇口から出る水は、鼻っちょをひっくり返してはじめて飲み水とでも認識しているんでしょうか。とにかく、あのどことなくひんやりとしたアーチを描く水以外では、蛇口から出たものを飲んだことがありませんでした。

かといって、我が家にはミネラルウォーターやら、ウォーターサーバーなどというものはありませんでした。単純に麦茶と、牛乳と、それから飲みたければ緑茶かコーヒーを自分で淹れるという具合でした。緑茶もコーヒーも面倒なので、麦茶か牛乳かで済ませている次第だったわけです。

たまに、二年に一度くらいで、夏場など麦茶も牛乳も底をついて、蛇口からコップに注ぐことはありましたが、それはあくまで『緊急用』だったわけで、しかも、別段おなかが弱いわけでもなく…むしろ強かったほうなのでしたが、自分の中で蛇口から下向きに流れる水は、飲み水ではなかったのです。

 

ふと、いつものように麦茶がなくなった日のことです。

こういうとき、普段は牛乳を飲むか、それも少なければ飲まないで過ごします。いずれ誰かしら気が付いて、家の誰かしらが麦茶を作るので、待っていればいずれ水にありつけますし、生まれながらあまり水を飲まないでも生活できる体質なので、別段苦労しなかったわけで、それがなおさら蛇口の水を飲まない習慣を長引かせたのでしょう。

でも、麦茶が好きなわけではなく、かといって牛乳も飲みすぎると下すので、台所で難儀しているときに、思いつきました。

『なんで蛇口から水を飲まないんだろう?』

こんなことを、そこそこ長いことわたしとして歩んできた割には、一度も思い浮かばずに生活していたのです。そして、思い起こしてみて、本当に『こんなこと』だったので、しかし確かに疑問なのです。

 

そういうわけで、今、グラスにただ水を注いで飲んでいる次第です。何も、違和感はありません。新鮮味も、なつかしさも、何も感じず、普通に飲んでいます。だからなおさら、なんで宙で弧を描く水だけ良くて、すらっと地面にのびるだけの水はダメなのか、疑問が深まるばかりで、釈然としないので、頭をしゃっきりさせるためにグラスに口をつけるのですが、この釈然としないのを飲み下すとき、のどを通るのに違和感のない水が、また釈然としないのです。

変なのーって思うかもしれませんが、自分でもそう思っています。

ためしに人に聞いてみたら、蛇口から水を飲むのはどこもヘンテコでなく、普通だそうです。自分でも、いま驚くくらい普通のことなんだなと認識しています。でもなんか変な感じですね。

 

変なのーっ。